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「ワタシたちは命なきもの。命に関する望みには強くひかれる」
アリスは女がなにを言っているのかわからなかった。
いや、わかりたくもなかった。
自らの望みを否定しているのだ。
「ワンダーランドはまさに不思議の国。キミも満足できるに決まっている」
女はアリスに手をさしのべる。
少女とは違って無表情に。
「おいで『アリス』。キミが主役だ」
アリスは首を振った。
行けば、自らの欲望、望みにとらわれて帰れなくなる。
漠然とだが、アリスにはそれがわかっていた。
「俺は行かない」
「キミは強情だな。かくなる上は強制連行ということになるが?」
「やってみろ。逃げてやる」
女はシルクハットに手をかけた。
アリスは身構える。
「残念ながら、ワタシは案内人ではない。いや、帽子屋であるゆえに案内できない、と言うべきか」
ためいきをついた女のそばに先ほどの少女が姿をみせた。
「また会ったね」
少女は笑顔で言った。
「さぁ行こう。不思議の国へ」
少女が言ったとたん、アリスは見えない縄で体がしばられるのを感じた。
「戻ろう。そろそろお茶会がはじまってしまう。間に合うか」
帽子屋の女の言葉をさいごにアリスの意識は途絶えた。
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