昼下がり

9/10

1156人が本棚に入れています
本棚に追加
/199ページ
「ご、ごめんなさい!僕がちゃんと前を見て、歩いていなかったから」 僕は自分のせいで転んでしまった、砂を払いのける人物に、謝罪の言葉を投げると、身体に付着した砂を、一通り払いのけた人物は、静かに答えた。 「別にいい……」 高くも低くもない、僕に聞こえるか聞こえないか、分からないくらいの小さな声。 かろうじて声質を聞いて、男性だと判断出来た。 何故なら見た目でその人物の性別を読み取る事は、完全に不可能だったから。 初夏だというのに黒のロングコートに身を包み、そのコートに付いているフードを深々と被り、おまけに黒のニット帽を目元深くまで被っている。更に大きめの黒のサングラスで、顔を隠すように身に付けているその男。 そして高級そうな黒の革靴。 190センチ近くある身長だが、見た目あまりにも痩せすぎているその身体。 若干見えるサングラスで隠れていない部分の顔も、女性のようにあまりにもきめ細かく、少年のようにも青年のようにも、見ようによっては女性のようにも見える。 年齢を読み取る事は不可能。 中性的な感じでサングラスを外せば、その下から覗く顔は誰が見ても、美少年と呼ぶ事だろう。 謎の男性はまるで何事もなかったかのように、僕と弥生を置いて歩き出した。
/199ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1156人が本棚に入れています
本棚に追加