いつかのために

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翌日私はいつものように朝番で出勤をした。そこには早々と施設長が出勤しており、電話に向かって頭を下げていた。 「はい…行かせていただきますので。はい…失礼します。」 電話を切るとその場にうなだれた。息を吸う音が震えている。 「どうしたんですか?」 「あぁ、高岡さん。実はね。」 施設長は目に力を入れ何かをこらえているようだった。 「今朝、ちかよさんが亡くなられたそうだ。」 私はかつてない衝撃を受けた。現実に起きている事が曖昧な夢のような。昨日まで元気にはなしていたあの方が亡くなるなんて。 気が付くと私は声をだして泣いていた。 「でも……昨日はあんなに。」 「分かってる。でもな、利用者の方は常に死を目の前にして生きているんだ。これから先君が想像している以上に辛く悲しい事があるぞ。」 施設長は私の肩を軽くたたきその場を後にした。 その後も私は信じることができなかった。あまりにも儚い人の死に自身の不安は更に強みをましていた。 他の職員も声を詰まらせていた。重い空気が流れている。 そんな中、朝の引き継ぎが行なわれ、職員全員で黙祷を捧げた。 ―貴方の不安は今の財産よ― その日は私の心とは裏腹に晴天が広がっていた。 引き継ぎが終わり利用者の集まっている広間へ向かった。 その途中の廊下にはちかよさんの書いた書道の作品があった。 【未来へ繋げる第一歩】 太陽の光が当たりその文字は美しく輝いてた。 不安は決して拭う事は出来ないけれど、今の不安が未来を支えている。 その文字は私にそう伝えているように思えた。 「今更ですけど、ありがとうございました。」 私は一礼をし広間へ向かった。 それることなく真っ直ぐと光が差す方へ。 ~END~
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