彼女と少女

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ぴょんぴょんと本の山に飛び乗っている様子は、そこらの曲芸に劣らないかもしれない。     「嫌ですからね、あんな得体の知れないものを家に置――って」     愚痴に横槍を入れるかのようなノイズが耳を襲い、反射的に耳から受話器を離す。   ウィルが突然機能しなくなった受話器から本体へ視線を移すと 案の定、本来受話器を据える場所にもこもことした黒い物体が乗っていた。 受話器とは似ても似つかない。   受話器になりきったそれは、悪戯っぽい金色の眼でウィルを見つめている。     「お前なぁ……」     ひょい、と黒猫を持ち上げて床に降ろし、本来あるべき受話器を置く。 「んにぁー……」     間延びした珍妙な鳴き声をあげると、猫はとある山積みにされた紙束の上にひらりと飛び乗った。 身軽に飛び乗るその姿は猫様様といったところか。     「ちょ……、汚れるから」     ウィルが慌てて今にも猫の寝床と化そうとしている紙束を取り上げる。 その紙を取り上げて見た瞬間、垣間見えたのは眉間にしわを寄せる渋い顔。   紙には何やら三角形かや四角形、細かな記号がぎっしりと書き込まれていた。   ウィルからしてみれば苦労して手に入れた魔術研究の資料を台無しにされると困るのだろう。   ある目的の為の資料。   長年の願望。   少しの希望に賭ける、はかなく脆い願望の為の。     血染めの資料。
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