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「…キシ…ン…マ…シミン…マキシミン!」
そこでマキシミンはハッとした。イスピンがなんとも言えない顔で此方を見ていた。…ぬるつく掌は真っ赤で、足元には肉塊のような屍体らしきものがあった。
(また、か……)
最近いつもこうだ。己を保ちづらくなってきて、不意打ちを受けたりすると…抜いているのだ。黒い刀身に赤い線条の入った剣を。
「マキシミン、あの剣…何?」
「……気にすんな」
イスピンを置いて歩き出す。血まみれの手は嫌でも目立っていて、遠巻きに見る人間をギンと睨みつければ逃げるように走り去った。……下らない。
血にまみれた掌、その赤はもう掌の上で酸化し、乾き、黒くこびりついていた。爪の中にまでこびりついたそれを完全に落とすのは至難の業だ。
「…ちっ」
イスピンがついてきているが振り向かない。軈てその足音も聞かれなくなる。イスピンはイスピンで後から宿に戻るのだろう。
――赤が、似合う
「……クソッ、」
手にこびりついて離れない血のように脳裏にこびりつく声――それが幻想とは分かっていても、あれが眩惑とは知り得ていても……。
「……うるせぇんだよ…」
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