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彼岸花には、毒がある。赤い、赤い、北向きの冷たい風に揺れる彼岸花。あの日その赤い花を摘みとったのは己と云えども。
それはやがて恍惚に至る毒。苦しみの涯、狂気の奥に映るエリュシオン。楽園の幻想。深淵の中に見えるそれは……甘い幻想。
宿に帰り、シャワーを浴びる。手についた血を洗うように、こびりついたものを落とすように、湯を浴びる。
「………」
何でこんなことをしたのかはよく覚えていない。ただ衝動的に爪で手首を思いきりひっかいた。水で軟らかくなっていた皮膚は思いきりひっかいただけでも切れた。赤い滲みが生まれる。
「はぁ…はぁっ………」
手首の鈍い痛みに我に返る。何をやってるんだ、クソ。思ったより血が出てる。
床をシャワーで軽くすすぎ、タオルで体を拭く。ガーゼを当てて片手で包帯を器用に巻いた。
風呂上がりの濡れた髪のまま、荷物から剣を取る。古びた剣。あの日盗んできた剣。そして今、マキシミンの人生を掻き回し、細やかな人生における望みさえもぶち壊し、マキシミンまでもを壊そうとしている、剣。
「クソが」
毒付いて、投げた。投げたそれを荷物に仕舞い直してベッドに潜る。もうすぐイスピンが帰ってくる。その前に寝ていたかった。
…寝るのに、十分かかった。
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