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――やめろ!
そこには己がいた。朱の血に塗れた外套を翻し、血で出来たかのような劍を引きずり。
紅い軌跡は歩いた痕。殺した跡。向ける先は…
「あ、マキシミン兄貴、ちゃんと働いてんの?」
「怪我?血だらけで。気を付けなよ?」
弟妹たち。イルマが近付いてくる。それを斬った。
―――やめろ!
続けて己の姿をしたものは弟たちも斬ってゆく。散らばる肉、噴き出す鮮血。砕かれた骨に積み上がる屍体。涙なんか出なかった。叫んで、吐気がして、吐いた。吐瀉物が地面に撒き散らされた。ぐちゃぐちゃで、胃液が喉を灼いた。
―――やめろ!ミストラルブレイド!
叫んでも、叫んでも、声にならなくて血が出ても、退廃へと至るその幻惑の幻想は消えることがなかった。いっそ狂ってしまいたかった。狂ってしまえば全てを忘れるのも容易いだろう。でなければ、死んでしまいたい。
「全てを殺し尽した。喜べ、これでお前は一人になれたんだ。マキシミン・リフクネ。全ての人間関係という鎖から解き放たれて、自由だ。」
自分の姿をした男がクックッと嗤う。目元はよく見えず、ただ妖しい光が宿るのみ。
「残るは、」
汝だけ――そう男は言った。構える剣、血に塗れたそれ。
――殺したいなら、殺せばいい…だろう?
泣き笑いを浮かべて虚空に笑う。壊れて、狂ったかのように。
「クク…ハハ…ハハハ…」
どちらのものとも知れぬ嗤い声が空間を充たした。
「――――」
そして瞳は開かれた。
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