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家を飛び出してみたものの、由美子に行くあてなどあるはずもなかった。
駅前の24時間営業のファミレスで、ドリンクバーだけを注文すると、ぼんやりと朝が来るの待った。
6時ぴったりに家に戻ると、元夫はリビングで頭を抱えていた。
『どこに行っていた?』
と尋ねられたなら、由美子は『ファミレス』と答えられたはずだ。
しかし彼は行き先など尋ねはしなかった。
『お前の実家と俺の親に電話しておいたぞ。お前が男のところに泊まりに行って帰って来ないことも全部。今度の日曜、俺の親が来るそうだ』
それだけ言うと、一睡もしていない疲れ切った顔で、のろのろと身支度をする為に立ち上がる元夫を見て、初めて哀れだと由美子は思った。
由美子の両親だけは、5年前の元夫の浮気からセックスレスに至るまで、全ての経緯を知っていた。
5年前は『我慢しなさい。子供がいるんだから』と言い続けていた母親も、その頃には『もう好きにすれば良いよ。1回限りの人生なんだから』と離婚を視野に入れた発言をするようになっていた。
由美子は母親を恨んだ。なぜ5年前に、そう言ってくれなかったのかと。5年前なら全て元夫が悪いと片付けることが出来た。いや、半年前でも良かった筈だ。半年前なら夫の浮気とセックスレスの2本立ての離婚理由が成り立っただろう。
しかしその頃、由美子はセックスレスが正当な離婚原因になり得ることなど知らなかった。
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