由美子

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   日曜日、元夫の両親は約束通りにやって来た。  由美子の両親は『もう好きにすれば良いから。私達は由美子の味方だから』と口先だけの綺麗事を言って、その場に来ることはなかった。  元夫とその両親、そして由美子……3対1では、由美子が不利になることなど考えつきもしない浅はかな両親に『来て欲しい』とは由美子も言い出せなかった。    案の定、元夫の 『こいつは浮気しているんだ』 の一点張りに彼の両親は責めるべきは、この出来損ないの嫁なのだとばかりに由美子を攻撃にかかった。  由美子は5年前の元夫の浮気を暴露したが、そんなことはもう過去のこと、時効だと一蹴された。  ならばそれ以降続いているセックスレスはどうなのだと、由美子は義理の両親の前では一生口にすることなど無いと思っていた言葉を口にした。   『お前が煙草を吸い始めたからだ……』   元夫はセックスレスの原因をそう理由づけた。 『こいつ、煙草吸うんだよ』 子供が親に言いつけるような口ぶりだった。    たしかに元夫の浮気発覚以来『あなたも好きな勝手なことしたんだから、私も好きなことをさせてもらう』一環として、彼が嫌がる為に、結婚と同時にやめたことになっていた喫煙を由美子はおおっぴらにしはじめた。実のところ、由美子は結婚してからもずっと隠れて煙草を吸い続けていた。  そんなことが出来たのは、元夫には嗅覚がほとんどなかったからだ。彼曰わく『年に1度くらい微かにコーヒーの匂いがわかる日がある』――その程度の無いに等しい嗅覚だった。   『もうお前はセックスなどしなくていいだろう』 と由美子を打ちのめした言葉になど、全く記憶がないと元夫は言い張った。
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