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しかし1度崩れた『信頼』は、バラバラになり『不信感』へと姿を変えた。
『もう、ちゃんと別れたから……』
と、機嫌を取るように何度も言う元夫は、その癖相手の女の名前も電話番号も決して由美子には明かさなかった。
『だったら興信所で調べてやる』
由美子は本気でそう言った。
『そんなことしてみろ、すぐに職場にバレて世間の笑い者になる。そうしたら働けなくなって、路頭に迷うぞ』
そして元夫は切り札に
『だいたい興信所がいくらかかるか知っているのか? ぼったくられて、あとから脅されて……お前に払う力があるのか?』
と、狡そうに笑うのを忘れなかった。
由美子は世間知らずだった。
今となっては『世間』など、まるで眼中にない由美子も、その頃はまだ『世間』が怖かったし、専業主婦の上、自由になるお金など持っていない現実が彼女を弱気にさせた。
浮気が発覚してから、由美子は大量の下着や服や化粧品を買った。
1度に20万以上の買い物をファミリー会員になっているゴールドカードで、月に何度も繰り返していた。
初めは黙っていた元夫も3ヶ月目に入ると、ついに言った。
『もう、気が済んだだろう……悪いがカードは返してくれ』
そんなことで、気が済むとでも本気で思っているのだろうか?――元夫の言葉に由美子の怒りの炎は再び勢いを増した。
由美子は値札さえはずしていない服を大量に捨てた。服など欲しくて買ったわけではないことを彼女自身、とっくに知っていたのだ。
その頃には、このじりじりと常に燃え続ける感情が、嫉妬でも信頼を裏切られた虚無感でも、不信感でもなく――単に『プライドを傷つけられた』ことによるものだと自覚した。
浮気が発覚した時に、女は男よりも相手の女を憎むものだと以前由美子は何かで読んだことがある。
確かにその通りだった。
由美子は相手の女の居場所を知ったら、殺してやろうと思った時期もあったのだ。
しかし今は――
矛先は完全に元夫に向けられた。
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