由美子

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   浮気発覚以来、元夫と由美子との交わりはなくなった。  初めは由美子が拒絶していた筈が、いつしか元夫が背を向けるようになっていた。  そして由美子は気づいた。 『浮気だけなら許せた筈だ……だけど、若い女とはセックスしたくて浮気するくせに、私には指1本触れないとはどう言うことなのか?』    女として、それは耐え難い屈辱だった。    子供を産んでから、正直、由美子には性欲がほとんどなかった。それ以前も出来ればセックスなど、しなくて済めばありがたいとさえ思っていた。  元夫も妊娠がわかると、気乗りがしなくなるのか流産を怖れるのか、産後に医師からの許可がおりるまではセックスをしない質(たち)だった。  浮気が発覚したのは2人目の子供を産んでまだ間もない頃だった。産後に1度も交わることなく浮気が発覚した、とすると……逆算して由美子は呆然とした。    セックスレスになってから5年以上が過ぎていた。   『ねぇ、関係を修復したいって言うわりには、どうしてセックスしないの? もう5年だよ……あなたはどう処理しているの?』 その時点では、由美子はそこまで切実ではなかった。何の気なし……そう、何の気なしに聞いてみたのだ。 『何を低俗なこと言ってるんだ。お前は母親なんだから、もうそんなことしなくて良いんじゃないか? 男は色々処理する方法なんてあるさ』 元夫は目元に嫌悪感を露わにしてそう言った。    もうそれ以上言うべきことは無いと、由美子は悟った。    由美子は38才になっていた。  32才を最後にセックスレスになり、この先この男といる限りは一生セックスすることはない。  そう思い至った時『離婚』の2文字と、生まれて初めての猛烈な性欲が体の芯から溢れ出てくるのを由美子は感じていた。
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