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由美子の望みは、思いがけずあっさりと叶った。
夜中にサイトで知り合った男と電話で会う相談をしていた由美子は、あまりの電波の悪さに窓際に立った。カーテン1枚の隔たりさえ、電波が悪くなる原因のように思えて、隠れんぼでカーテンの向こうに隠れる子供のような格好で話し込んでいた。
だから由美子は気付かなかったのだ。
『じゃあね』と電話を切って振り返った時に初めて、とっくに2階で寝ている筈の元夫がそこに立っていたことを知った。
『お前……メールだけじゃなかったのか。会っていたのか……』
正確に言えば、今、電話で話していた男とはまだ会ってはいない。しかし、由美子は訂正するつもりもなかった。
血の気がひく……とは良く言ったものだと由美子は元夫の、まさに血の気のひいた真っ青な顔を見てそう思っていた。
『おいっ!なんとか言え!』
わなわなと拳を握りしめる元夫に、由美子は無意識にこう言っていた。
『ねっ、すっごく悔しいでしょ?』
由美子は笑い声さえ上げていた。
元夫は由美子の相手は今の電話の男1人だと勘違いしているようだった。
『どこのどいつだ!』
いくら胸ぐらをつかまれてすごまれたところで、由美子にもわからないのだから答えようもなかった。
『そんな男がいるなら、今すぐ出ていけ!』
そう喚き散らすと、何を思ったか元夫は夜中だと言うのに子供達を起こしに行った。
『ママは男作って出て行くんだって……』
由美子は耳を疑った。自分が浮気した時には(子供達には言うな、俺の親にも余計な心配かけるだけだから黙ってろ……)そう言い続けていた元夫が、口汚い言葉で由美子の浮気を子供達に伝えているのだ。
由美子は急いで着替えると、バッグに財布だけを突っ込み、外に飛び出した。
そして、その日初めて由美子は外泊をしたのだった。
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