40人が本棚に入れています
本棚に追加
まだHRも始まらない、朝早くに二人は登校してきた、まだ人もまばらで、話しにはもってこいだ。
「加奈ちゃんこっち!」
優一が手招きしながら、声をかけてきた。
少し嬉しそうな感じが声から感じられる。
「あんた!なんでちょっと嬉しそうなの? 声が入れ替わったのよ!」
逆に加奈の方は不満なようだ、そもそも彼女が今回の一番の被害者だ、自慢の美声を出せなくなり、かなり落ち込んでいる。
「そんなにショックだった?、そりゃそうだよね、僕の声なんて、・・・」
喜んでばかりいられないと優一は加奈の心中を察した。
「これからどうしようか?」
「・・・早く元に戻して」小さな声でぼそりと呟く加奈。
「・・・それが~しばらくは元に戻らないらしいんだ。」
「どれくらい?」
「一ヶ月、それくらい待てば、元の声に戻るって」
「一ヶ月⁉」
治る希望が見えたというのに、加奈は浮かない表情だ。
「ダメよ!、来週に合唱コンクールを控えているの!私が出ないってどうやって皆に納得してもらうの?もっと早く治す方法はない?」
「他に方法があるかも知れないけど、わからないんだ。」
優一の言葉を聞き、がっくりと肩を落とす加奈。
しばらくして、加奈は何か思いついたように、顔をあげた。
「そうだ、あんたがいるじゃない!」
「へ?・・なにが?」
「優一が私の代わりにコンクールに出るの!もともと私の声なんだから、人が代わったと思えばいいんだわ。」
「でも、僕、歌なんて下手くそだよ、声が代わったからって、そんな上手いくかな?」
「大丈夫!私がコーチする!発声の練習から、喉の開けかた、全部私に任せなさい!」
自らの胸を自信ありげに叩く加奈。
この日から、優一と加奈のコンクールに向けた特訓が始まった。
最初のコメントを投稿しよう!