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前方から後方へ、白い川は流れる。そして私で行き止まる。列の最後尾だからだ。
「この用紙に皆さんの志望校を記入して下さい」
教卓の前で担任がそう声を張り上げていた。
「まだ二年生の一学期だからと油断してはいけませんよ!大学受験戦争はもう既に、高校に入学している時から始まっているのです」
延々と続く言葉を聞き流しながら、配られた紙を二つ折りにして鞄に押し込む。
中学受験をして高校受験をして大学受験をして就職活動をして……戦争とやらが永遠に続くんだろうか。
終わりはあるのか、もしそれが無いのなら私の志望はどこにも行かないことだ。
変わらなければ良い、永遠に停滞したままで。未来への夢も希望も無くて良い。
そんな乾いた自分の思考が、すこし可笑しかった。校舎の二階から見える景色は灰色。空が暗い、もうじき雨が降るだろう。
SHRが終わりクラスメイト達は廊下に出てお喋りをしたり、我先にと校門を飛び出していったり、三々五々に散らばっていく。
「ね志乃。あんたは志望校どこにするの?」
鞄に教科書を詰め込んでいると、泉が私の肩を突付いてそう尋ねてきた。う~んと軽く首を傾げる。
「まだ全っ然考えてないや。変な努力しないで入れる緩い学校ならどこでもオッケー」
その答えに、泉は「あんたらしいや」と呆れたように笑った。
「でもさその進路調査書、結構馬鹿にできないらしいよ。志望校によって三年次のクラス編成決まっちゃうらしいし」
「ええ、マジで?私大学はどうでも良いけど泉とか優菜と別のクラスは嫌だぁ」
「それは私も。ね、今から優菜と近松ちゃん達とマック行くんだけど、志乃もどう?」
仲の良い友人たちが廊下からこちらに手を振っているのが、泉の肩越しに見えた。行きたいけど……私はパンっと音を立てて、顔の前で手の平を合わせた。
「ごめん、泉!今日の夕方、スーパーでタイムセールが有るから無理だわ。志望大学、泉たちと同じにしたいから後で教えてね」
「ん、了解」
「じゃあまた明日」と友人一同に手を振って、私は教室を後にした。
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