梟と猫

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 とにかく、松永の邸は広くて閑散としていた  庭師の手入れが行き届いた日本庭園に茶室  テレビの中でしか見たこともなかった景色に、小太郎は竹ボウキを握ったまま溜め息をついた 「おやおやどうしたのかな?」  小太郎が集めた落ち葉の山に、マッチの火を投げ入れた松永が楽しそうに見上げた 「すまないねぇ、しかし立派な庭だろう? 前の持ち主はある有名な代議士でね…まぁ色々あって私が譲り受けたのだよ」  何があったのか、小太郎は松永の言葉に小さく頭を振った きっと恐ろしい経緯だ  松永は着物の袖から銀紙に巻いたさつま芋を取り出し、薪火の中に放りこんだ  この男、私服が和装なのだ  小太郎は彼の洋装姿を仕事用のスーツでしか見たことがない 「さて、卿もあたりたまえ」  いつまでも落ち葉を掻き集める小太郎に声かけた  焚火の炎が、冷えた指を暖かく迎える 「もう食べれるかな?」  焚火を見ながら松永が呟いた  しかし、己で焼き加減を見るでもない  小太郎に見ろと言っているのだ  小太郎は、小枝で中に埋まっているさつま芋を掘り返した 「真っ黒だね」  煤で黒くなった包みに、松永は抑揚のない声で呟いた
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