緋色の記憶

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  私は唯走っていた。 理由なんて知らない。唯何かに急かされた様に感じただけ。それだけ。 ――――… 「――っ!!」 夢、だった。何かに肩を掴まれた所で目が醒めた。確かに見覚えのある街を駆けていた。あれは私の記憶なのだろうか? 私が目覚めたのは昨日。何があったのか、私には記憶がなくなっていた。黙っているつもりだったが、医者が気付いたので素直に頷いた。 私は都内の大学に通う普通の学生で、年は18。梶原 斎。一人暮らしを為ているらしく、親等は見舞いに来ない。実は記憶喪失は一時的なものだと言われ、何処かショックを受けている。あんな夢を見たのもその所為なのかも知れない。 「いつき、」 夢でも呼ばれていた気がする。夕陽で橙に染まる街中を走る自分。嗚呼、自分は泣いていたかも知れない。何故泣いていたのだろうか。 記憶を辿ろうとして、止めた。 また背に走る悪感。体が拒否為ている。無理に思い出すのは自分の為にならないだろう。 「……私は、何を忘れたいの?」 何から逃げているの? ――今の自分には、全てが敵に映った。  
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