緋色の記憶

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  「退院?」 彼女は素っ頓狂な声で聞き返してきた。 私は退院を願い出たのだ。もう一週間もベッドの上で点滴を受けている。多少傷も痛むが、少しくらい自由に動きたい。 「退院なんて未だ無理だわ。」 「仮退院はどうですか?」 「駄目よ。なぁに、その仮出所みたいな申し出は」 「…庭に出るだけでも良いです」 兎に角外に出たい。病院の中も、敷地外も、私は知りたいのだ。―― 一刻も早く自分を思い出す為に。 しかし、その願い出は悉く却下された。 何故病院内すら自由に動けない。私は何に縛りつけられている。 「貴方は此処に居れば安全なのだから、」 看護師の天使の様な微笑みに、私の体は戦慄した。 ――此所はどうか為ている。  
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