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優しい微笑み、誰かに似てる。…誰だったかな。大好きだったのに、見れなくなったのは何時からだっけ?
――――…
扉の向こうは到底病院とは思えない所だった。パステルで統一された部屋の中央にあるのはベビーベッド。病室、と言うよりも子供部屋の方が正しいだろう。
暖かい。部屋の温度と言うか、気持ちが。
何の気なしにベビーベッドの上に吊された玩具を指で弾く。何とも言えない可愛らしい金音を響かせながら回った。
懐かしいとさえ思える。不思議なものだ。
「あら、何方?」
「、っ」
振り返ると、喪服の女性。顔は黒いベールの所為で確認出来ない。…とてもこの場に削ぐわない。
「嗚呼、この子のお友達ね?」
「…」
「そう、何時も一緒に居るの…え、昨日はままごとを?」
彼女は何処を見ているのだろう。私の方を見ているが、私が映っていない。
「あの…」
「そう、ごめんね。会えないわ。明日も、明後日も…」
「あのっ!」
「お引っ越し?違うわ、」
「――っ」
幾等呼んでも応えなかった彼女が突然目の前に詰めよってきて、私の首を絞める。
「っ、」
息が出来ない。頭で血が滞る感覚。
「ほら、そうやってママを困らせるから」
長い爪が首に食い込む。
「ねぇ、お願いだからママを困らせないで。泣いてばかりいたってママには分からないんだから、」
苦しい。絞めてくる腕に爪を立てて引き剥がそうとするのに、上手く力が入らない。
「ママは忙しいの、我が儘を言う子は…嫌いよ」
意識が、遠くなる。
何か、掴んだ。霞む視界に、黒が剥がされた誰かの顔。其れは、何時か見た顔。
――どうして私を嫌うのですか?
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