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「だぁあぁあああぁぁああぁああ!! 来るなぁぁあああぁぁああぁあ!!」
閑静な住宅街に恐怖に満ちた叫び声が響き渡った。
俺の悲痛な叫び声も届かず、ソイツは確実に俺めがけて走ってくる。
逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げなきゃ死ぬよし逃げよう!
中年の女性達が無駄話に花を咲かせている住宅街を一直線に駆け抜ける。網膜に周りの風景が映ってはあっという間に後ろに流れていく。
周りの視線など気にしてる場合ではない。今はアイツから逃げることが最も重要かつ最優先事項だ。
住宅街を抜けると人通りも車の通りも多い大通りへ辿り着く。よし、ここなら撒ける。
後ろを確認する。ちっ、しっかり追ってきてやがる。
人の隙間を上手くすり抜け、かわし、避ける。コンクリートの地面を踏み蹴り加速する。遊歩道を駆け上り、駆け下りる。
「スミマセン! ちょーっとごめんなさい!」
通行人は、こんな所で走るなよ、とあからさまに不機嫌な目で見てくるが、関係ない。こちらとて一大事なのだ。
人混みを抜けてすぐに近くの路地裏に入る。道が狭く走りにくい上に、途中にあるポリバケツが邪魔で仕方がない。
ポリバケツを飛び越し、なぎ倒し、二手に分かれた道で、壁を蹴り、勢いよく右に曲がる。
暗く薄汚れた道をスピードを緩めずにひたすら走った。
追い付かれたら、終わる! 逃げきるさ。逃げきってみせる!
俺の背後に迫るソイツは、そんな俺の決意を嘲笑うように言った。
「ワンッ!!」
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