第一章  坂崎コウ君の日常①

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中島敦のこの名言は非常に的を射た言葉であり、また社会の真実なのだろう、と思う。 人には、【自己実現】の欲求が存在する。 これは、「自分はこの世に何かを残す事ができただろうか」、「何かを後世に残したい」といった、自己満足心を満たすべくため存在する欲求である。 これは年を重ねるごとに強くなる欲求なんだそうだが、僕にはこういう欲求が他人と比べても乏しいのではないか。 そんな気がしてならない。 僕にはそもそも夢がない。 というか将来の自分の姿が上手く思い描けないのだ。 自分には人と比べて優れたところや、得意な物がない。 また、特別な趣味といった物もない。 せいぜいが惰眠を貪る事ぐらいだ。 もし目指すべき目標が定まれば、それにベクトルを向け、優先順位を決められるし、何より生きる上で活力が生まれる。 こうなれば、僕も充実した人生が送れるワケだ。 その為にはまず何をすればいいのだろう…………… と、そんな事を考えている内にトースターが甲高い音を上げ、パンが焼きあがる。 うむ。美味い。 やはり朝はトーストにバターを塗って食べるのが一番だ。 一人暮らしも板についてきたようだ。ま、正解には一人ではないが。そこはそれ。殆ど一人暮らしのようなものだ。 というか一切家事をしない母親なんぞ、いらない。…そんな母親は一般的なのだろうか。 まぁ、他と比べた事もないし、比べようとも思わないが。 おっといかん。時間がなくなる。 どうにもこの思考癖は治らない。 まぁ、治す気もないが。 点けっぱなしのテレビからニュースが流れる。 動物園でレッサーパンダの子供が生まれたらしい。 うん。興味なし。 なんて平和なんだ。 他国では未だに戦争やら何やらをやっているってのに。 とはいっても、やはり殺人事件は毎日起きているようだ。 最近この近くで連続殺人が立て続けに起きており、しかも未だに犯人の足取りすら掴めていないんだとか、リポーターが言っている。 おぉ、怖い。 やはり人間、最低限の危機感は持つべきなのだ。うん。 おぉっと。もう登校時間に間に合わなくなる。急がねば。 パンを口にくわえたまま戸締まりをし、急いでチャリを漕ぐ。 今日も角で女の子と衝突するラブコメイベントは起きなかった。無念。 ま、あっても事故になるだけだが。チャリ通やめようかな…。 10分後、我が学校に到着。 【都立赤坂高校】。 全校生徒978人のそれなりの規模の学校。 急ぐか。
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