第六章  鷹虎刹鬼くんの日常①

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  「……行ってきます……」 誰にも聞こえないような声で、ぼそりと言い残し、家を出る。 しかし、母だけが気付いたようだ。 「行ってらっしゃい、刹鬼」 自然と笑みがこぼれる。やはり、母だけが俺の事を分かってくれる。 あー。 にしても、気が晴れねぇなぁ。 全部、昨日のオヤジのせいだ。 イライラしてるし、 ムカムカしてるし、 ムラムラしてるし……これは違う。 あー、クソッ。 近くのゴミ箱を蹴る。ぶっ飛ぶ。当たる。 屯してた不良集団に。 即、絡んでくる。ここらへんの不良はいつだって古典的で、短気なヤツらばっかりだ。 「オイ……お前。俺らに喧嘩売ってんのか?」 ……………アー。 こうなるか。どうすっかなぁ。 「何とか言えよ。てめぇ!」 俺の頬を殴る不良A。 …………こりゃあ、正当防衛、だよな。そうだよな。よし、そういう事にしよう。 「売ってるつもりは無かったが……買おう。値段は……うまい棒でいいか?元祖たこやき味」 あ、怒った。 短絡的なバカだな。コイツ。しかも古い。今更、こんな文句になぁ……。 ま、俺も人の事言えねぇが。 「ぶっ殺す」 「やってみろ。クズ野郎」 喧嘩開始。 即、不良Aの鼻を思いっきりぶん殴る。 あ、折れたな。こりゃ。ふふ。 お、全員で来るか。来てみやがれ、小物が。全員返り討ちにしてやる。 やっぱり喧嘩してる瞬間は最高だ。 何も考えずに済む。 このスリルは何物にも代え難い。 ウサ晴らしにもなるしな。 そう。まさにこれだ。 これが俺の日常だ。 俺の失いたくない日常だ。 俺の守りたい日常だ。 俺の愛してやまない日常だ。 親父がムカつくこともあるし、喧嘩でボロボロになることもある。 でも、それも含めて。 俺の――――最高の日常なんだ。  
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