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揺れる電車を次々と乗り換え、ジャックはカビィ氏の会社へ向かった。最後の電車から降りると、そこは市場で賑わう街が広がっていた。魚や野菜を取り扱っている店がズラリとならび、それぞれの店が他には負けないかのごとく、客引きをしていた。しかし、その街の中でひときわ目立つ建物がそびえていた。他の家の7~8倍くらいはあるであろう直立した建物は天に向かってまっすぐ伸びていた。
「何だいあんた、あの建物に用でもあるのかい?」
そう声をかけてきたのは30代後半ほどの腰にエプロンをまいているおばさんであった。その頬はうっすら赤く、元気一杯に遊ぶ子供のような顔が、メガネを通してはっきり見えた。
「ええまあ、一応仕事でカビィ氏に会いに行くんです。」
「そうかい・・・・・・・。取引でもするのかい?でなければあまり関わらない方がいいよ。」
さっきまでの明るい笑顔は消え、まるで1日で誕生日を10回迎えたほどのしわしわとした顔になった。
「関わらない方がいい?それはどういうことですか?」
「意味なんかないよ。そのままさ。だから、損したくなかったら関わらない方がいい。あんたもまだ若いんだし、これから会社でも・・・・・・・・」
どうやらいまだに会社員と勘違いしているらしい。私は懐からケースをとりだし、それを彼女に差し出した。
「申し遅れましたが、私こういう者です。」
「あらあら、ごていねいにどうも。・・・・・・・・ジャック・アルダー?あの、もしかしてあの名探偵の?」
どうやら私の評判もここまでは届いているらしい。私としてはそれはありがたいことでもあり、同時に誇り高いことだ。
「じゃあ、やっぱりあのことなのねぇ😞」
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