10人が本棚に入れています
本棚に追加
そこは、真っ暗だった。
闇。その一字を具現化したような空間。
『その世界』は、どこか違う場所にあった。
真っ暗のはずなのにとても澄んでいて、確かな景色が存在していた。
空気が震えた。
遠くない場所で声がする。
「また『生命』が……」
声のするほうに、一つの影が揺れる。
「このままでは……」
影がつぶやく。
キ………ィィイン!
突然、悲鳴とも叫び声ともつかない音が響いた。
「……私が…ですか?」
ィ………ィイン!
「わかりました。行ってきます」
そう言って、影は消えた。
… … …
――子供たちも学校から帰る夕方。
ビルの建ち並ぶ街の中、誰も気づかないような道の端に、先ほどの影が現れた。
「………」
それは、悲しそうな表情をしたようにも見えたが、すぐに何事もなかったように歩きだした。
最初のコメントを投稿しよう!