雨の夜

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“人が死ぬ”と言う事実は、本当に身近な誰かが死んで初めて実感できる。 そして俺は、生まれて17年……初めて“死”を実感した。  誰かが居なくなる─── それは、残された人の世界を変えるには、十分すぎるくらいに重い事実だ。 俺の家族は、別段に仲が悪いわけでなく、かといって特別良いわけでもなく……まぁ言ってみれば平凡。そんな言葉が似合うような家庭だった。 表向きは─── まぁ確かに事実、一般的な家庭だったと思う。 両親が居て、兄が居て、そして俺が居て……。どこにでもある4人家族。 一般的なマンションに住んでて、父親は普通の会社で真面目に働いてて、母親はいつも家に居て家事をして。俺はちょっと成績の良い地元ではそれなりに有名な進学校とされる高校に通っていて、そして兄貴は………海外に留学して、飛び級で大卒した。 まぁ、そこそこに普通だ。 だけど。 俺にとっては、普通なんかじゃなかった。 優秀な兄貴。そんなもんが居りゃ、嫌でも親の期待はそっちに向く。 俺だって頑張ってみたりした時期もあるさ。だけど結果は、高が知れてた。 どんなに頑張ったところで、平凡な俺は優秀過ぎる兄貴に敵うことなんて何一つ無かった。 勉強は勿論のこと、スポーツだって、料理だって、何をやらせても兄貴は一級の腕前。 俺は足元にも及ばなかった。 一時期は、テニスプレイヤーになりたいなんて夢を持った事もあった。 両親に頼み込んで、ちょっと遠くてちょっと高いスクールに通わせてもらった。 毎日毎日練習した。 それなのに─── ある休み、海外から戻って来た兄貴を相手に試合をした。 ……結果は、惨敗だった。 どんなに努力をしても。 どんなに頑張っても。 兄貴は俺がどんなにも熱望するものを、軽々とかっさらっていってしまう。 夢も。 両親の期待も。 俺の…居場所でさえも。 両親は俺に全く関心が無かったわけじゃない。 ただ、いつもいつも俺と兄貴を比べて、その度に俺に失望した。 そして俺を諦めた。俺に期待することを辞めた。 親に期待されないと言う事は、その家において子供の居場所を失くすのには十分すぎた。 いつも優遇される兄貴に、いつも失望される俺。 どんなに平凡な家庭だろうと、そこに居場所の無い俺にとってはそこは既に“普通”ではなかった。 そう…“そこ”には、俺の居場所は無かった。  
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