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人間は簡単に他人に干渉する。しかし、その軽率な行動に本人は何の責任もなければ何の自覚もない。人は、互いに干渉し、触れ合い、傷つけあい、壊しあい、また、慰めあうのだ。
では、彼女の干渉とは一体何なのか。それは、『侵略』だった。まごうことなき純粋な侵略。僕の心、といっても僕に心があるかどうかは疑問だが、まぁ一般でいうところの精神領域を彼女は尽(ことごと)く全力で侵して冒して犯しつくし、文字どおり侵略してきたのだ。
それはもう、ノイローゼになってしまうぐらいに。
こと僕にかけてはそういうことには特に疎い方なので、今のような心理状態を保っていられるが、もし僕がそこら辺にいるような凡庸な男性だとしたら一発で彼女の虜になり、今頃忠実なる奴隷として彼女の下にひざま付いているだろう。
いや、一見これはとても堕落ゆえに白濁しているように見えるが、彼女の奴隷になれること、それすらも最近の人々にとっては幸せなことではないだろうか。
最近の人々というのは自分から何かをしよう意欲にかけている。その最たる者が僕であることには一辺の疑惑も入れるところではないが、誰しもそういう面は持っているであろう。
さて、ここでの奴隷というのは別に苦痛で地獄で傲慢な労働を無理矢理するという意味ではなく、彼女の為に苦痛で地獄で傲慢な労働を自らの望みでやるということである。
そう、自らの望み。自らの望みなのだ。自分の願望、欲求、願い、望み、祈り。つまりは、凡庸な男性からすれば自ら彼女の奴隷になる。そのことすらそういう類の範疇であるということだ。
ならば僕という立場。自ら奴隷になりたいと、彼女の方から申し込まれている僕の立場はどうなるのだろうか。
低弱な人間はとことん低弱であり、弱小であり、矮小であり、雑魚であり続けなくてはならないという格言が世界で一番低弱で弱小で矮小で雑魚な僕にはある。それなのに、何故そんな壊れたマリオネットの瞳のようなこの僕を好きになんかなったのか。
これは、これはわからない。いくら戯言を用いても、いくら思考を深めても、それはミストのように正体は朧気になり実態を掴めない。そうやって僕が一人悩んでいる姿を見て彼女はいつも
「ふふ、一夜。そうやって悩んでる姿も愛してるわ。」
と、僕を更に思考の淵へ追いやるのだった。
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