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彼女が何故僕のことを好きになったのか。至極簡単に言うと、なぜ彼女が壊れたのか。その理由を説明しよう。
一言で言うと、彼女は異端だった。異能、鬼才、天才、神に選ばれた悪魔、悪魔を生け贄とした怪物。それは周囲を脅かすのには十分だ。故に集団のルールから外される、社会の秩序から外される、世界の論理から外される。
彼女こそ異端。
異端こそ彼女。
彼女こそ鬼才。
鬼才こそ彼女。
しかし、人は彼女を神として崇めることはしない。同じ人間だから、同じ生物だからそれを人外であると、生物で無いと認めてしまうと世界が狂う。論理が狂う。秩序が乱れる。
故に、彼女のことを神として認識をしない。むしろ本来がどうあれ人としてみなさなくてはならない。何があろうと、何が起ころうと、何も起こらなかろうとだ。
彼女にとっては、それが普通だった。自分がこの世に生まれ落ちたその瞬間からそれは日常であり、日課であり、人生であり、運命だったのだ。自分が人間でも生物でもないという思念を抱きながらも人間として生物として振る舞わなくてはならないその愚行。
幾度も自分という存在を消そうと試みる行為も、その尽くが偶然という名の必然につぶされる。
自分は消滅しない。
そう思い至った高校一年生の入学式に、彼女は僕をその視界にいれた。
ふとすれば何でもなく通り過ぎていってしまうような少年。間違いなく自分の人生とは関係がないだろう。だが、何か、何だろう、そう、何か、これは、わからない、何で、こんな、何故、どうして、こんなにも、違う、世界、消える存在なのに消えず、消えない存在なのに消える、生きている、死んでいる、その口は、黙っている、喋っている、髪を、梳かして、その指で、雑音を、気にせず、考えているようで、その実何も考えていない、眼球が動く、しかし景色を見ていない、足が動く、しかし前を見ない。
気付いたら、彼女は一人の人間になっていた。僕の一挙一動を気にして、僕の息遣いを気にして、僕の心を気にして。
人間らしい心、つまり『愛』という名の堕落に、彼女は僕を一目見ることで、こんなにも、いとも、たやすく、陥った。
まるで、この世界が簡単に壊れてしまったかのように。
「……なんだかんだで、理由ではないけどな。」
原因はあれど理由が無い。結果はあれど課程が無い。
しょせんは戯れ言絵空事である。
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