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人間を掻き分けて出て来たのは、緩くパーマの掛かったおばさん…と言える年齢の女性だった。しかし、梓には其れが誰だか分かった。
「松野さん?松野綾さん?」
お隣さんの奥さんだった。毎日玄関前の掃除をしている、キャラメル色の茶髪が特徴的な笑みが深い女性だった。
其の女の人は何かに撃たれた様に口許を掌で覆い隠し踞って、呻き声を漏らしながら泣き始めた。
何がなんだか分からない梓に向かって、近くに居た男性が膝を着いて梓の前にしゃがんだ。この人も、何処かで見たような面影がある。
「立岡、俺が誰だか分かるか?」
「……汐田先生?」
視界に一瞬入った右の手の甲。ミミズ腫れのように、三日月型に火傷が走っている手が梓の記憶に入り込んで重なったのは、高校のクラス担任の汐田晃先生だった。
「本当に、立岡なんだな。…まさか、こんなことがあるなんて。」
汐田は一瞬梓と視線を交えるも、直ぐに他の場所へと留めた。ずきり、と先程の傷みがぶり返す。
「あの、」と説明を促すような声音を向ければ汐田は一瞬瞳を瞬かせるも納得した様に目を細めた。
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