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ウィンディには良い思い出も悪い思い出もあった。
あそこは水で守られ、一部の選ばれた者達が何不自由なく暮らしている。
ウィンディの者達は知らないだろう。多くの者がそこに住む者達のために犠牲になっていることを。
「あそこには水がいっぱいあるの?」
「あぁ」
好奇心で目が輝くマオがディートを質問攻めにしようと口を開いた時だ、この周辺を警備している傭兵が見回りにきたのだ。
「そこで何をしている」
悪人面と言って良い顔の男が鋭い視線を4人に向けながら聞いた。
彼らは王都に危険を与えそうな者達を取り締まったりするのが仕事の1つだ。
「何って、私達親子で旅をしているの。子供達は王都を見るのは初めてだから、雨宿りもかねて眺めているの。ね、あなた?」
リキュアは顎のライン添うような長めの髪がよく似合う。その笑顔でディートの腕をとって見せびらかすように腕を組んだ。
「あ、あぁ。俺達はその…」
「すごく初々しいでしょ? 私達新婚なの。それとこの子達は私の死んだ姉の忘れ形見で、私達夫婦が受け取ったワケ」
いきなりの強引な設定で戸惑ったディートをよそにリキュアは軽々と嘘を並べた。
「ほら。3年前の戦争で姉夫婦が巻き込まれちゃってね。それで…」
3年前。その言葉を聞いてディートは辛い記憶を思い出しかけ、それを慌てて止めた。
「あぁ。分かった分かった」
悪人面の男はリキュアの話を途中で打ち切り、傭兵達はその場を後にした。
「お父さん。お母さん」
姉弟が不意にそう言って、ディートとリキュアのマントの端を放さないようにしっかりと掴んだ。
「なぁに?」
そうリキュアが笑顔で答えると姉弟が顔を輝かせてお母さんと何度も言った。もちろんディートをお父さんと呼ぶことを忘れない。
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