第2章 巡り合わせ

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「隊長か… 私はもう隊長ではなく団長だ」 バーディスは静かにそう言った。 3年前の戦争での功績が認められ、隊長から団長に昇級したのだ。 「そうか! あれはディートだ」 隊長だった頃のバーディスを思い出していたヴァンはその頃よく側にいた傭兵の顔と名前を思い出す。 ディートは3年前の戦争後、姿を消すまでディートともう1人の傭兵がバーディスの側で活躍していた。 その頃のディートは俊足のディートとして名を知らしめていたのだ。 「ディート?」 「俊足のディートだ。隊長、いや、団長。2、3時間前にディートが子供と女を連れて山を登っているのを見かけたんだ」 「ほう」 今まで表情をほとんど変えなかったバーディスが口の端をあげて笑った。しかし、その目は力強い光が宿り、表情通りの心境ではないことがうかがえる。 「女、子供と一緒だったと言ったな」 バーディスは兜をヴァンに放り投げ、リザードに跨る。 「はっ!」 跨る一瞬に見せた気迫にヴァンは冷や汗を額に浮かべ、兜を受け取りながら言った。 「今夜一晩、騎士団がこの近くに野営する! 頼んだぞ!」 バーディスはそう言い残してリザードの腹を蹴った。リザードは土埃をたてながら山へ向かう。 「俺は触れてはならないものに触れたのか?」 ヴァンは小さくなる後ろ姿をただ見ているしかなかった。
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