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湿ってきた空気を切って空をかける鷲の顔と翼、獅子の胴体を持つグリフォン。
彼女はこの世界では珍しい獣の背に乗って山を越えようとしていた。
「あれは!?」
山間から空まで届く黒い煙と焦げ臭い匂いが彼女に異変を知らせた。
それと同時に不安と何かがそこへと引き寄せる不思議な気持ちが胸の中で暴れた。
あそこへ行かなければならない。きっと何か運命を変えるモノがあるのかもしれない。そう結論づけた。
「グーちゃん! あそこへ!」
それだけで彼女と長年一緒にいたグリフォンには伝わった。
グリフォンは翼をきしませるように空で急回転し、速度をほとんど落とすことなく進路を変える。
「やぁ!」
ディートは盾と剣を巧みに使い、連携が取れていない賊の間を風のように抜け、確実に数を減らしていく。
「何している! ぼさっと見てないで一気にかかれ!」
いつ攻撃すべきかを迷って行動が遅れている仲間に言う。
しかし、我が身が可愛い者達にとって力の差がはっきりと分かるディートに攻撃できない。
力がないから集まった者達から見てみればディートの力はそれだけで脅威に見える。
その時、鳥特有の鋭い鳴き声が村に響いた。
「グリフォンだ!!」
グリフォンが嘴を大きく開け、鋭い爪がある前足を前に突き出す。
ディートとグリフォンを見て勝てないと判断した賊達は散り散りに逃げ出した。
ディートもまた突然現れた文献でしか見たことがないグリフォンの姿を見て剣を構え、グリフォンの攻撃に備えた。だが、肝心のグリフォンは攻撃をしてくる気配がなかった。
怪訝そうに眉をひそめると、グリフォンの背から女が顔を出した。
「大丈夫?」
占い師のような格好をした女は笑顔でディートに聞いた。その女の笑顔を見てディートは思わず顔をそらした。
性別も顔も全く違うのに死んだ相棒の笑顔と重なったのだ。
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