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「私の顔に何かついてる?」
「い、いや。何でもない」
彼女は黒い前髪を揺らし、緑色にディートを映しながら顔を近づけてきた。
それに慌てたディートは体を思いっきり後ろにそらして逃げる。
「お兄さん!」
後ろから姉弟の声が聞こえてきてディートはほっとした。そして、何故自分がほっとしたのか疑問に思う。
「リラ、マオ! 無事だったのね!」
運良く逃げ延びた村人達が村の様子を見に戻ってきたのだ。
生き延びた者達は互いに抱き合い、喜び、失ったものを思って泣いた。
「ありがとうございました」
村人達はディートとグリフォンの側に立つ女に礼を述べる。
「礼をしたいのですが… すみません」
「気にするな」
ディートはそう言って村から出ていこうとした。
「どこへ行くの?」
ディートの服の袖を掴んだリラが慌てて聞いた。命の恩人を怪しんだことを後悔していたのだ。
「スフィアへ向かっている」
スフィアと聞いて村人達は驚き、口々に忠告や旅を止めるように言った。スフィアに踏み込んだら最後とまで言われ、命の恩人をそんな危険な場所に向かわせたくないのだ。
「おーい! 騎士団が来てくれたぞ! これで安心だ!」
村の外に出て賊が戻ってくるか監視をしていた村人がそう言って戻ってきた。
騎士団と言う言葉にディートは表情を曇らせたのを名を知らぬ彼女が気づく。
「急ぎ旅なので」
ディートは礼をするとさっさと村から出て行ってしまった。
「ねぇ、旅に向いた服ない? あったら譲って欲しいんだけど」
早口に村人の女へ彼女は聞き、服を一揃え譲って貰った。
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