六月中旬。

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「あ、浴衣くんだ」 OLの一言に反応して、集団がこちらに注目した。糸郷は緊張するとまず最初にうなじが赤くなるのだが、ああ、やっぱり赤くなっている。うつ向き加減のまま、糸郷はOLの向かいの席へ着いた。 「あ、新しい人? 連れて来てくれたんだ。ちゃんとした人だよね?」 「ああ、うん。いや、でも加入するかどうかはまだ分かんないな」 新しい人? 頭にクエスチョンマークを浮かべたまま突っ立っていると、OLの隣のロリータが話しかけてきた。 「初めまして」 「あ、どうも」 何故敬語? 自分にツッコミ。しかしすげえな、ロリータの衣装。奥の席のガキが押し潰されそうなくらいボリュームのある服だ。友人に押し付けられた小説に、こんなキャラが出てたな。なんだっけ、ロージーメイデンだったか。 「私は節堂明と申します。貴方のお名前を伺ってもよろしいですか?」 「あ、えっと、僕の名前は──」 名前を言いかけたところで、OLが割り込んで来た。 「あ、明ちゃん、フライング。自己紹介はまだだよ。浴衣くん、ほら」 「ああ、えっと、こいつは、その、俺と同じ大学の奴で、それで──」 しどろもどろ。 本当にこいつはもう。まどろっこしいので、糸郷の言を遮って自己紹介をした。 「南佃小柳と申します。今日は浴衣君がどうしてもと言うので来てみました」 よろしくお願いします、と頭を下げた。 糸郷、仲介ぐらいきちんとしろ。
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