六月中旬。

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さて、僕がどうして日曜日の午後、統一性の無い集団と語らう事になったのかというと、事の始まりは親友からの頼み事だった。 「なあ、小柳。お前、日曜日暇か?」 場所は大学の食堂。時間は昼のピークを過ぎた頃。 カツカレー最後の一切れを口に運んだ瞬間、向かいの席の糸郷浴衣が話し始めた。 口の中に物が入っている場合、相手の発言を黙って聞く事しか出来ないので、ただ話すよりも説得される割合が高くなるというセオリーに基づいての行動だと思われた。しかし、月曜の昼に日曜の予定を訊くとは、この男も洒落た事をしやがる。 豚肉を咀嚼していると、案の定、糸郷は畳み掛ける様に話し始めた。 「いや、暇だったら付き合って貰いたい場所があるんだけど」 ………………。 けど何だ。先を言え。 「ほら、お前しょっちゅう言ってんじゃん。休みの日はだらだらと時間を無駄に使って過ごすのが一番だ、って」 ………………。 豚肉うめえ。 「だからさ、それなら俺の用事に付き合って貰いたいって思ったんだけど」 ………………。 面倒臭い。 「おい、黙ってないで何か言えよ!」 「だったら物喰ってる時に話し掛けんな!」 豚肉を嚥下した直後に怒鳴られた。セオリーは関係無かったらしい。 それにしたって理不尽だ。僕は食べ物が口の中にある時は喋るな、と教育されてきたのだ。こいつの言う事は、骨折した人間に走れと言ってるのと同じ事である。 「骨折したのが腕なら、走っても大丈夫じゃねえの?」 「それにしたって気は遣うだろ。いくらお前がパンキッシュでも、許される事と許されない事があるぞ」 「パンク関係無えだろ」 上段から、リベットだらけのレザーブレスレットを着けた腕がやんわりと振り下ろされ、男子平均サイズの掌で頭を叩かれた。 「痛、髪の毛挟まった」 「あ、悪い」 頭からどけられた手には、海老のようなごつい指輪が嵌っている。 「……理由を聞かせろ」 「え、いや、その……」 いきなり口ごもった。 何だろう、気の所為か糸郷の頬が赤い気がする。
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