初めての抗がん剤

11/11
8031人が本棚に入れています
本棚に追加
/371ページ
  病棟には2ヶ所におっきなソファーがいくつも置かれている。 テレビも置いてあり、そこのテレビは無料で見れる。 患者さんやお見舞いに来た人達が、気兼ねなく話せるように用意された場所だった。         点滴が終わると、だいたいはそこに移動して私とおかぁはしゃべっていた。     あの時、何かを取りに病室へ私だけ戻った時だった。       ナースステーションに主治医の先生を見つけ、軽く会釈をする。   すると先生が、 『すみません!!』 と言って追いかけてきた。       『1回目の抗がん剤の結果が出ました。 …残念ですがあまり効果はなかったみたいです…。』   そう言って、入院する前に撮ったレントゲンと、抗がん剤をうった後に撮ったレントゲンを見せてくれた。     明らかに効いていない。 むしろ大きくなってないか??       私が見た感想だった。         先生が言う。 『効果のない薬をいくらうっても意味がないので、お母さんには腫瘍が少ししか小さくならなかったと言って、違う薬に替えます。』 と…。         『わかりました。 お願いします…。』   それだけ言うと、先生はまたナースステーションへと戻って行った。           あんなに元気やのに… 今こうして笑ってる間にも肉腫はどんどん大きくなっている…。         私が見たおかぁの肺のレントゲン写真は、両方の肺の半分ぐらいを埋めつくした肉腫が映っていた。       これさえ無ければおかぁは元気やのに…。           そう思いながら、おかぁが待つソファーへ早足で行く。   こうして抗がん剤の1回目は終わった。
/371ページ

最初のコメントを投稿しよう!