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一つの恋があった。
誰にも裂かれぬ、深い哀しみに染まった恋が…。
-愛していますよ…。いつまでも貴女一人を…。-
-愛している…我が命と同じく、永遠におまえ一人を…。-
あまり大きいとは言えない円形型の街が、鬱蒼と生い茂る深緑の樹海に囲まれるようにして存在していた。
恋話と桜で有名な街。
その名は“ヒュプノス”眠りの街である。
住人は、先代達が何故このように名付けたのか、誰一人として知る由もなく、新たな名前に替える心算も、また無かった。
ヒュプノスの中枢に位置する大通りには、立派な桜並木が直線上に路の両端を奔っている。
この桜達はそう植えられた訳ではないのだが、太古から並木型に直線に自然と生えていたという。
そんな桜達に導かれるようにして歩を進めると、街の全貌を見通せるだけの小高い丘に辿り着く。
そこには、また一段と巨大な一本の桜が、街を見下ろすように聳え立っており、桜並木と共に観光名所とされ、大通りのそこここに出店が建ち並び、日々賑わいをみせている。
そして、ここの住人や商人、観光客等は誰もが
「ここの桜達は、まるで誰かを迎えているようだ」
と、口を揃えて言うのだという。
どの桜の蕾も大きく膨らんで色付き、咲き誇る時を待つ春。
だが、観光名所とまで言われている桜並木と巨桜の近辺には、まるっきりと言っていい程人気はなく、逆にしんと音が張り詰める程に静まり返っている。
いつもは商人と観光客の雑踏と声で満ち溢れているのが常なのだが…。
それは何故か?
それは、ある者は恐れ、ある者は楽しみにしている一つの『言い伝え』のためだろう。
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