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志村唯は、いつもの待ち合わせの時間より30分も早く駅に着いていた。
できるだけ大勢に囲まれて、心細さをまぎらわせたかったからだ。
しかし、どんなに大勢に囲まれても、考えてしまうのは昨夜の事ばかり。
(昨夜のアレは……)
黒い影。
『M』
(あの噂は、本当なの……?)
唯は鞄から携帯を取り出し、ディスプレイを見つめた。
偶然その視線の先に、手を振っている少女の姿が目に入った。
武田仁美だ。
仁美は、すらりとした唯とは対象的な、小柄でかわいらしい雰囲気の少女だった。
仁美は小走りで寄ってきて、にこりと笑う。
しかしその笑顔は、どこかぎこちない。
「唯ちゃん、今日は早いね」
「うん……ちょっとね」
唯と仁美は、お互い探り合うような視線を送り、その怯えを感じ取る。
重い沈黙。
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