59人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
カツ、カツ、カツ、
「千葉先生、こんにちはっ」
「はい、こんちは」
決して笑顔で返された挨拶ではないのに、女生徒たちは黄色い声を上げる。
白衣を翻して校内を闊歩する男。
ふい、と化学準備室に消えた。
「よぉ……来てたのか」
「うん、勝手にお湯も沸かしてる」
やかんをちらりと目の端に入れると、白衣も脱がずに椅子にどかっと腰掛ける。
「……薬品庫の一番上の左」
「分かった」
薬品庫の前に立つと、視界に入るインスタントコーヒーの袋。
(あとちょっと、なのに)
不意に影が落ち、自分の指先の一歩上を白衣が越えていく。
「小っせぇのな」
くく、と喉の奥で笑いながら、準備室のプレートを「実験中」に変える。
「先生ってコーヒーに何か入れるっけ?」
「ブラックで砂糖1本」
「それ、ブラックって言わないし」
「良いだろ、黒いから。お前はクリープと砂糖一個ずつな」
くしゃ、と頭を撫でられる。
「ちょ、ちょっと、ぐしゃぐしゃにしないでよ!サイテー!」
照れ隠しに、貴方の背中を叩いた。
(嬉しかった。覚えててくれたなんて)
最初のコメントを投稿しよう!