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下校時間。啓一は珍しく健太と帰っていた。
「学校明けの一服は美味いなぁ…。」
健太はどうどうとタバコを吸いながら歩いている。
啓一は横目でそれを見ながら言った。
『僕にもくれない?』
健太は一瞬驚いたが笑いながら言った。
「その気持ちわりい喋り方直したらやるよ。」
啓一は1つ咳払いをして言い直した。
『う、うん…。お、俺にもくれ。』
健太は笑いながらも1本渡してライターを貸した。
啓一は小さい頃からタバコやアルコールから離れさせられて生きてきた。それを摂取する事が死に直結していると教えられていたからだ。
だが、今、啓一の心にあるもの。それは自分がやらねば何も変わらないという事だった。
(これ吸って死ぬならそれまでの人生さ。)
啓一はそんな事を考えてタバコに火をつけた。
なんとも言えない苦味と辛味が口に広がる。肺に煙を入れた瞬間、啓一は青白い顔をして噎せていた。
「あははは。大丈夫か?」
『じきに慣れるさ。』
啓一はそう言ってまたタバコを口にくわえた。
その時啓一達を後ろから呼ぶ声が聞こえた。
『ほ、細田君。秋本君。』
啓一達が振り向くと先ほど藤井達に苛められていた女生徒だった。
『何?』
『あ、さっきはありがとう。』
『いいえ。それより…君、名前なんて言うの?』
『…平井裕子。』
『ふ~ん。じゃあね。平井さん。何かあったら言ってくれたら助けるよ。』
「調子に乗るな!」
健太は啓一の後頭部にツッコミを入れた。2人は笑いながら帰路に着いた。
裕子は2人を後ろから見ながら呟いた。
『中学生はタバコ駄目なのに…。』
1ヶ月後…。
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