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雨降る町
ザアーっという音が町に響く。
町の建物はレンガ作りで、町の中央にある時計塔や石造りの砦を除けば、殆どが一、二階建ての低い作りになっている。
この雨が降り出してどれくらいだろうか。
少なくとも、もう一週間は降っている筈だ。
俺はそんな事を思い、入口付近の壁に寄り掛かりながら空を見る。
水滴が帽子の縁から地面にピチャンと落ちた。
後ろからは疲れきった味方兵士のイビキが雨音に混ざり、微かに聞こえてくる。
俺は革のベルトを手繰り寄せ、ライフルを手にとる。敵国が使っている最新式の銃と違い、一発一発弾を込め直さければいけない旧式の代物だ。
もはや骨董品と言っても過言では無いだろう。
だが旧式であろうと、自分の命を守る物には違いない。抱えていると心が落ち着いた。雨続きの為、手入れも欠かさない。
――腹が減ったな。
ふと思った。
ここから見える時計塔が示している時間は既に夜中の二時。
ずっと起きていれば腹も減る時間だ。
俺は腰にあるポーチから缶詰を、懐からは紙に包んだ薫製肉、それに安物だがウイスキーが入った小さなボトルを取り出す。
先ずは薫製肉を噛みちぎり、少し噛んでウイスキーを一口飲む。口の中で肉の旨味とウイスキーの芳醇な香りが混ざり合い。何とも言えぬ味わいを醸しだす。
――旨いな
雨で冷え切った身体全体に、ウイスキーが心地良い温かさを与える。
暫くの間目を閉じ、その心地よさを味わった。
そして缶詰に手を伸ばしたその時。
――バシャン
水音
その音に反射的に片膝をつき、ライフルを構える。
音は自分の前方から確かに聞こえた、そう遠くはない。
雨が激しく、前は良く見えない。仮に何者かが居たとしても、自分の姿を捉えてはいない筈。
心臓の鼓動が早くなる。
息を殺し、前方に銃を向ける。
音が段々と近づいてくる。それに比例して心臓の鼓動も刻みを早くする。
緊張で目がチカチカした。
口に溜まった唾液を飲み、銃を持ち直す。
と。
『ワン!』
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