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「…とりあえず、先に言っとくけど、君は俺の父親に雇われただけで、俺に雇われたんじゃない。」
リビングに入るなり、俺は琴音に言った。
自分のテリトリーを、メイドになんて乱されたくない。
「…。」
「家事は嫌いじゃないし、どちらかと言えば自由気ままに、自分のペースで生活したいと思ってる。」
琴音が口を開く前に、俺は畳み掛けるように言った。
「…何がおっしゃりたいんですか?」
「君は、仕事で来たんだろうけど…。俺は、メイドなんて必要ないんだ。」
少し言い過ぎかも知れない。だけど、黙っていて仕事を任せても、俺の満足する結果にはならない事は目に見えていた。
「なるほど…。」
意外な事に、琴音はあっさりと納得した。
「…。ちなみに、琴音サンは…得意な仕事は何?」
肩透かしを喰らったせいで、俺は琴音に質問していた。
「得意な?」
「…炊事、洗濯、掃除…。他にもあるかも知れないけど…。何を得意として、雇われたの?」
「…私…。」
琴音は、俯きながら黙り込んだ。
「…面接のつもりで答えればいいよ…。」
面接での嘘は、いざ実践であからさまにバレる。
「面接の?…私が面接の時に、言ったままを答えれば宜しいですか?」
答えを思い出したのか、琴音は頬を上気させて言った。
「…そうゆう事だ。」
今までのメイド達と明らかに違う。琴音からは、そんな気配がした。
「私…。炊事も洗濯も掃除も大嫌いで、やりたくありません。」
「…。」
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