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意識が戻った姉に、誰も本当の事は言えなかった。
治ったと信じてる姉は、前向きに頑張っていた。
私は姉が心配な反面、県大会を控え、部活に手を抜く事は出来なかった。
姉のお見舞い、家事、部活。夏休みはあっという間に過ぎて行った。
父は二人きりの食事の時に、私に言った。
「希望…お前最近疲れてないか?」
父に優しい言葉をかけられたのは、初めてだった。
「大丈夫だよ。お父さんこそ、私の作った料理でお腹大丈夫?」
私は明るく笑った。
俯いた父の目から涙が溢れた。
「希望…お前の名前の意味わかるか?」
父がこんなに優しい目をして私を見るのは初めてだった。
「わかんないけど…私この名前好きだよ!」
私は父に笑顔を向けた。
「そうか…」
それきり父は黙った。
私は冷蔵庫からビールを取り出し父にお酌した。
父は美味しそうに飲み干した。
「お前も飲むか?」
私は初めてビールを口にした。
苦い!だが…
「大人の味がする」
そう言って笑った。
父は私を抱きしめて泣いた。
父に抱きしめられながら、私は父の肩を優しく撫でた。
…お姉ちゃん、あなたは幸せな人だね。だから、頑張って!…
私は姉を思った。
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