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学校の裏山に上がって行く。
体力に自信はあるが、大翔の歩幅にあわせていたので息があがった。
「おっ、悪い!」
気付いた大翔は歩くスピードを緩めた。
さりげない優しさにドキッとした。
突然大翔が止まったので、背中にぶつかる。
ふいに目を塞がれ慌てた。
「なっ何?」
私がさわぐと、
「よしっ!見てもいいよ。」
塞がれた手がはなれた瞬間、夕焼けに染まった町並みが眼下に広がった。
「うっわぁ…きれい!」
思わず涙がでてきた。
「綺麗だろう?」
私は無言で何度も頷いた。
ふいに後ろから抱きしめられた。
「えっ!」
私は身動き一つとれなかった。
「ここでちゃんと言いたかった。恥ずかしいからこっちむくなよ。」
大翔の鼓動が伝わって来た。
「県大会の時に、俺足傷めてさ棄権したんだ。悔しくて人気のない所で泣いてた。気付くと泣いてるお前が居て…後でわかったんだけど、お前は嬉し泣きだったんだよな!」
私は訳がわからず聞いていた。
「お前が俺に気付いたから、俺は目を反らして俯いた。泣き顔見られたくなかったからな!しばらくして顔をあげたらもうお前居なかった。でもさ、むかついて投げたラケットやシューズやタオルが綺麗に揃えて置いてあった。」
私の記憶にその場面が浮かんで来た。
県大で優勝して、関東大会に駒を進めた直後、一人で嬉し泣きしたのだ。
肩を落として泣いていたのは、大翔だったんだ…
「あの時の…」
「思い出して貰えた?何も言わないで立ち去ったお前のそのくせっ毛だけが目に焼き付いてた。」
「ひどいな~」
私はいつの間にか抱きしめられながら、身をゆだねていた。
突然向きをかえられた。
大翔の目が私を見つめる。
夕焼けに照らされ瞳がキラキラしていた。
「あれからずっと気になっていた。」
私は何も考えられなかった。
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