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口では『役に立たない息子』とよく言っているが、その顔がその言葉を裏切っている。
写真を手に息子のことを語る糸は、本当にいつも幸せそうな表情をしているのだ。
しかし、そのことを糸に正面から言うつもりはない。
言ったら最後、しつこいと言いたくなるほど糸は全否定してくるからだ。
「まぁいいですけど……
ダグラスさんなら納得です。」
そう言って鷹夜は淡く笑うと、ゆっくりと立ち上がった。
「すいません。
つい長居してしまいました。」
「あら、いいのよ。
暇な時にはいつでもいらっしゃい。」
鷹夜はもらったピアスを大事に持ち、糸に頭を下げた。
「これから毎日、私と皐月さんが抜けることになります。
引退されている糸さんに頼むのも申し訳ないのですが、お屋敷のことお願いしますね。」
「気にしないで、鷹夜君。
お屋敷の仕事は、私からしたらもう趣味の領域だから。」
そう言って糸はおちゃめにウインクすると、鷹夜を送りだすように扉を開けた。
「ありがとうございます。
それでは……」
鷹夜は糸に会釈すると、次なる目的地に向かって足を踏み出した。
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