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ずぶ濡れになりながら、走って帰って来たグランが見たのは、ベッドに横たえられたルニアだった。
まだ歩くことの出来ないレネスが、キョトンとした顔で周囲を見ている。
病床にあるはずの母が父に支えられてすすり泣き、他の使用人達もすすり泣いている。
屈託なく、朗らかなルニアは皆に愛されていた。
眠っているようにしか見えないルニアに歩み寄り、グランはその頬に触れた。
まだ温かさを残す頬に、眠っているだけなのではと希望を抱く。
だが首筋に添えた手には、脈動が感じられない。
真実、死んでいた。
その現実に、グランは足下から世界が瓦解する感覚に襲われた。
目元を覆い、震える声で呟いた。
「ガレットに、なんて言えば・・・ッ」
自分だから託すと言ってくれた友を思い浮かべ、グランは漏れる嗚咽を堪えた。
「・・・あ―・・・」
小さな声に、グランはそちらを見る。
母親に向かって伸ばされる、小さな紅葉。
その手を握り、グランはレネスを抱いた。
温かい小さい体を抱き締めて、グランは震える声で謝り続けた。
(・・・守ると、言ったのに)
約束を、守れなかった。
その後、ガレットの悲嘆と怒りは凄まじかった。
だが、ルニアを王の愛妾として葬る訳にはいかなかった。
レネスの身を、守るために。
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