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「……竜の咎人を見るのは、初めて」
不意に少女は白く細い手を伸ばし少年の頬に触った。
あまりに自然に触られたので少年は反応が遅くなり、触られて半秒後に驚いたように飛び退る。
「なな、何を!?」
「何って、スキンシップ?」
何でもない事のように少女は言い、更に触ろうと近付いてくる。
「ぼ、僕はその、人と触れ合うのは苦手なんで……出来れば、スキンシップとかは止めて、下さい」
顔を伏せ、表情を見せないように言った少年。
しかし少女からの返事は無く、どうしたのかと顔を上げようとした――瞬間。
「それじゃあ、あなたは誰とも分かり合えない」
ぐいっ――と、伏せていた少年の両頬を掴み少女は強引に持ち上げた。
透き通った宝石のように美しく、人の心の奥底まで見透かすような、少女のサファイア色の瞳。
上でもなく、下からでもない、それは『対等』な視線。
竜の咎人など関係なく、ただただ、少年の真意を探りたい、少女の偽らぬ感情が瞳には映し出されていた。
「竜と仲良くなるには、触れ合うのが一番いいと教わったし、違うの?」
息もかかりそうな程近くにある少女は何とも不思議そうな表情をする。
異性と近くで触れ合うのは彼女からすれば、どうやらあまり気にする事ではなく、しかし少年からすればそうはいかない問題だったりする。
「違うも違わないも、僕に竜そのものとの触れ合い方をされても……っていうかもっと近付けても意味ないです!?」
顔を真っ赤にし更に飛び退る少年。
少女は今度はそれを追わずレイの所へ戻っていく。
何事か話しているのは、多分竜とのスキンシップの仕方が間違っていないか聞いているのだろう。
二人が話をしている間に、少年はその場を離れようとした。
音を立てず細道に向かおうとしたら――
「エルラ・メナイン・ペンサード」
「え?」
突然の少女の言葉に、思わず返事をした少年。
二人の距離は近くなく、それでも少女の言葉は少年の心の近くに届いていく。
「私の名前。出来れば私もあなたの事、竜の咎人じゃなくて名前で、呼びたい」
「……僕は、僕の名前は」
朧気だった少年の声は、少しだけ前より力強く、エルラの耳に届いた――
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