~第一幕~咎を持って生まれた者

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「先生~そんな事言っても無理ですよ~。だって彼女が出来るのはどれもワンドクラスの魔法ばかり。二年生になる私達の中で唯一、中位魔法を一つも出来ない彼女に緊張するなって言うほうが無理な話で~す」 途端にざわつく集団。 所々からの笑い声に、しかし少女は無視するように黙り杖を強く握り締める。 「皆さん、笑うのを止めなさい。メサイアという家柄が特殊だと前にも話したでしょう? 彼女が魔法を上手く出来ないのは自身のせいではないのです。それを笑うなどとは――」 「先生、いいんです」 その時、少女が初めて喋った。鈴を鳴らすような澄んだ声色。 柔らかく耳に残るその声は、しかし芯の通った強い響きも持っていた。 「私が魔法を上手く出来ないのは事実です。だから別にいいんです――よし!」 意気込むように叫んだ後、少女は模様の方へ歩を進める。 真ん中まで歩くと立ち止まり、長い深呼吸を繰り返した。 「――よし。先生、始めます」 スーツ姿の女性が優しく頷き、集団は固唾を飲んで見守る。 「――――――――」 少女の小さな唇から発せられる、言葉の紡ぎ。意味を問うても誰も分からない、昔から受け継がれた契約の呪文。 風に乗り、空気を伝い、全てに染み渡るように遠く、遠く響く呪文に釣られるように、少女の周りに光が生まれ始める。 最初は小さく儚げに。だんだんと大きく力強く。 いくつも回るそれら光の玉は美しく、見る者は心を奪われてしまいそう。 そうする内に光の玉は少女の目の前へと集まり、大きな球体となる。 言葉を紡ぎ続ける少女は閉じていた目を開け、真直ぐにそれを見つめた。 いつしか止まっていた呪文。 その最後のワンフレーズを言う前に、少女は細い腕を光へと伸ばす。 まるで何かを掴むように、捕まえるように、見つけるように。 「我が対となり、糧となる従者、ここに呼び醒まさん――サーヴァント・リペクト!」 言うと同時、皆の視界は光に塗りつぶされていった――
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