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「…………」
光が消え、召喚時特有の煙が消え、視界が開けた時、少女は思わず無言になった。
――成功したと思った。
成功したと思ったのに今、目の前にいるのは――
「人……間の、使い魔?」
集団の誰かがそう呟いた瞬間、まるで結んだ口が開くように大きな笑い声が上がった。
所々ではなく、今回は全体から。
「さ、さすがメサイア家のご息女! まさか人間を召喚するなんて!!」
「これじゃあ魔法の技術うんぬんじゃなくて、もう魔法使い失格だろう!!」
大声を上げて笑う声達にやっと気付いた少女は、途端に顔を赤くし伏せてしまう。
手に握る杖はワナワナと震え、顔の赤みは耳まで達する。
(何で……何で何で何でっ!?)
――サーヴァント・リペクト。
ヨーグ大陸に点在する多くの魔法学院の中で一番歴史深い、ここインクリス魔法学院では一年生が二年生に上がる際、使い魔を召喚する儀式が行われる。
通常呼び醒まされる者、例えば火トカゲや土モグラ、水蛇や風竜など、人とは異なる理(コトワリ)で生きる者が召喚される。
召喚された者は召喚した者の盾となり、矛となり、相棒となり、家族となる。
それは魔法使いの卵である少年少女らが最初に経験する、大きな人生の分岐点ともいえる。
歴史ある儀式の中で『人間』が呼び醒まされた事は無い。
呼び醒まされるのは絶対に、人間と違う理の者だけなのであるから――
「……ミス・メサイア」
「は、はいっ!?」
先生の暗い声を受け、少女は背筋を伸ばし硬直した。
先生は顔を伏せたまま、肩を震わせながら少女に近付いてゆく。
無理もない――と少女は思う。
だって自分が召喚したのは人間。しかも男の子。
歳は自分と変わらないようだが髪は伸び放題で服はボロボロ、平民の中でも貧相と位置付けされる身なりをしている。
先程から自分を見つめてきていて、伸びた前髪から覗く目が意外と鋭くて何だか恐い。
というか――
「……何見てんのよ」
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