~第一幕~咎を持って生まれた者

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そのインクリス魔法学院内にあるセルシアの広場。 そこから伸びる細道を幾分か行った場所に湖があった。 名をグヴァンの真湖といい、生徒でさえその存在を知る者は少ないという、穴場のような場所だ。 そんな、森に囲まれ薄暗い湖のほとりに佇む者がいた。 自分の左手の甲を見つめ無言で立ち尽くすのは、シエルに呼び出された、あの少年。 長い前髪から覗く目には何やら深い感情の沈みこみが窺え、しかしその意味する所を知る者はいない。 少年は、先ほど起こった出来事を思い出す。 無意識に指で唇をなぞると、あの時の柔らかな感触が、今も残っているような気がした。 「……誰ですか?」 途端、少年は喋り出す。 その言葉に合わせるように木々が揺れ、次いでそこから何者かが姿を現す。 「…………」 現われたのは、水色の髪をした少女と男だった。 短く切り揃えられた髪の少女は大きめの眼鏡をかけ、マントを羽織っている。 しかし男の方は簡素な、着物のような服装をしていた。 制服でない事から、彼はどうやら魔法使いではないらしい。 「あなたが今話題の、平民の使い魔?」 「さぁ、僕に言われても……」 はぐらかすように愛想笑いを浮かべる少年。 それを見て、眼鏡の少女は静かに近付く。 「私の隣にいるのが、何か分かる?」 唐突な質問だった。 少年は少し驚いた顔をし、そして諦めたような、小さなため息をつく。 「人へ変身のできる、上位種の風竜ですよね?」 「!?」 少年の答えに少女は驚いた表情をし、風竜と言われた男は険しい顔をする。 「僕にそういう事を聞くって事は……気付いてるんですよね?」 今度は少年が問いを投げかける番だった。 それを聞いた少女は更に少年に近付き、今や手を伸ばせば届く場所に立つ。
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