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母も黙ってくれていた。俺は何も言えないほど辛かったのだ。それを母は理解してくれていただろう。
もうこの景色を見ることがなくなる。友達とも会えなくなる。
そう、わかっていた。父が転勤する事を。新しく家を買ったことを。友達の誰も俺が引っ越すという事をしらずに、過ごす事を。
バタン。車のドアを閉める。
『今日がこの家で過ごす最後の日。』と思うと、涙がこぼれた。
いまさらだと思った。
卒業式から、ずっとずっと我慢してたのに、とうとう泣いてしまった。
ドアを開け静かに、ただいまと言う。弟はワクワクしていた。明日が大きな旅行に思えているのだろうか?それとも・・・始まりだと分かっているのだろうか。
俺は『終わり』としか考えられなかったが、こいつには『始まり』。
はやく切り換えないといけないなと実感する。
もうお別れだ。この町にも、愛にも。
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