走り出す

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 空は少しずつ静かになり、涼しさを帯びていた。いつも元気よく飛び交っているカラスたちも、そろそろ塒(ネグラ)に帰っていく頃だろう。  一羽だけカラスが、脇にある電柱に止まっていた。まだ巣に帰らないのだろうか?と心配になる。しかしカラスは、電柱についている照明が点灯すると、羽を広げて暗黒の空と同化してしまった。   (僕たちも、進んでいくしかないよな。前が見えなくても、とにかく前へ。)   「じゃあ、明日。学校でな。」 「うん。頑張ろうね。」   俺達も暗い夜のなかを、家へ向かって駆け出した。       「ただいま。」 「おかえり。遅かったのね。」 「うん。僕、始めることにしたから。」 「えっ?」 「弓道。また始めるから。」    凉の笑顔が懐かしかった。久しぶりだった。「また始めるから。」のその一言から、凉の学校生活での楽しさが伝わってくる。  凉が楽しく過ごせることは、親として最高の幸せだ。
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